「持続可能な農業」とは何か

バイエルン州クリンゲル農業研究センターの試み

 ドイツの農業政策は、安定的な食糧確保を目的とするのみならず、農業による再生エネルギーの産出に明らかな重点を置いています。そのメソッドとしては、エネルギー作物の栽培、バイオガスの利用、農地における太陽光発電及び風力発電が広く浸透しており、今や農業経営者は再生エネルギーの重要な担い手となりました。

 新たなエネルギーの創出をスタンダードとする傍ら、今ある資源を最大限に生かし、周辺の自然環境を守りながらオーガニックマーケットの需要に応えるーーードイツの農業は容易ならざる試行錯誤を重ねつつ、真に持続可能な道を目指しています。

 

 懸け橋プロジェクトでは、バイエルン州クリンゲル農業研究センターの取り組みを中心に、ドイツの今と未来の農業を学ぶプログラムをご紹介します。

農業教育・試験・専門機関としてのクリンゲル

  1911年に創設された牧場協同組合を前身とするクリンゲル農業研究センターは、バイエルン州農政局の直属機関であり、農業従事者及び農学生を対象に、生産からマーケティングまでのプロセスを専門的且つ実践的に学ぶ場を提供しています。また、エコアカデミーとしては有機農業のノウハウを伝えるものであり、従来型の生産システムから有機農業への切り替え方法、オーガニックの多様性と自然環境の保護、オーガニック養蜂や林学についてのセミナーが随時開講されています。

 こうした教育機関としての機能の傍ら、クリンゲル農業研究センターでは様々な実験やプロジェクトが行われています。たとえば、クリンゲルでの電気供給源の100%を再生エネルギーへと切り替えるプロジェクトでは、研究センター内の屋上に様々な太陽光発電モジュールを設置し、屋根の角度や各モジュールによる発電量を計測しています。

クリンゲル産のリンゴを使ったオーガニックジュース
クリンゲル産のリンゴを使ったオーガニックジュース

  また、バイエルンの森におけるオーガニック酪農法のシステムを比較するプロジェクトは、牛の育成環境の影響を調査するもの。オーガニックという条件の下、持続可能且つ効果的な育成環境を、牧草地の植物に見られる変化や経済効果といったデータを指標として研究しています。この他にも、子牛の飼料を2011年からヨーグルトへと完全に切り替えたことで、哺乳期の子牛の下痢症が明らかに軽減されたという報告や、異なる有機資材と牧草の利用によって収穫や飼料のクオリティに違いが見られるかどうかの調査など、クリンゲルで実施されているプロジェクトは、いかにして持続可能な農業を実現するかという問いに実践的に答えんとするものです。

 

 クリンゲル農業研究センターが専門とするのは、農業経済学、植物栽培、植物保護、畜産、動物栄養学、漁業、酪農とテクノロジー、マーケティングの八分野。特に力を注いでいるテーマとしては、山岳農業、タンパク質管理、草地マネージメント学、気候変動、エコロジカル農学、再生エネルギー、動物福祉が挙げられます。

体験学習の一例・北海道からクリンゲルへ

北海道・とわの森三愛高等学校の研修旅行
北海道・とわの森三愛高等学校の研修旅行

  クリンゲル農業研究センターを毎年の研修旅行の目的地としているのが、北海道・とわの森三愛高等学校のみなさん。バイエルンの森に張りつめていた寒さが少しずつ緩み始める頃、クリンゲルとその周辺施設を訪れ、懸け橋プロジェクトの通訳とともに体験学習を行います。三愛高校のみなさんのためのプログラムには、バイオガス施設やドイツを代表する農業機械メーカー・Claasの見学、周辺農家での実習、パッサウとミュンヘンでの観光が含まれます。

 

 バイエルンの森を中心として設定された当プログラムは、参加される団体様のご希望に沿ってカスタマイズが可能。実習の形態や訪問施設の内容により、プログラムの値段が変動します。まずはメールにてお問い合わせくださいませ。

オプションの一例・バイエルンのアグリツーリズム

チーズ農家ハインドルさんのファームショップ in Fürstenzell
チーズ農家ハインドルさんのファームショップ in Fürstenzell

 農村は、食とエネルギーの源であるだけでなく、観光資源の宝庫でもあります。農村地域の割合が多く、豊かな自然環境に恵まれたバイエルンでは、早くから農村部に観光客を集めるアグリツーリズムが実施されてきました。その経験とノウハウが蓄積された今では、「ドイツアグリツーリズム連邦協会」を中心に、それぞれの地域がアグリツーリズムのクオリティの維持、マーケティングの手法と観光内容の更なる充実を目指しています。また、近年注目されている「持続可能な観光」(サステイナブルツーリズム)は、アグリツーリズムにおけるファームショップに体現されるところの地産地消システムの論理的後ろ盾となるものであり、これら二つの概念の発展的関連性が追求されているところです。

 ドイツアグリツーリズム連邦協会は、アグリツーリズムを以下の七つのカテゴリーに分類し、それぞれに品質保証のマークを付与しています。

・農村におけるツーリズム

・馬術ファームにおけるツーリズム

・ワイン農場におけるツーリズム

・漁村におけるツーリズム

・果樹園におけるツーリズム

・体験農場におけるツーリズム

・田園部におけるツーリズム

 懸け橋プロジェクトでは、アグリツーリズムの視察をオプションとしてご提案します。日本でグリンツーリズムの可能性を模索中の皆さま、バイエルンの地で農村観光の現場を体験してみませんか。